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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)1419号 判決 1983年9月14日

裁判所書記官

安井博

本籍

東京都墨田区石原三丁目一番地

住居

東京都杉並区清水三丁目二番二二号

会社役員

長谷川勝美

昭和一六年九月六日生

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官三谷紘出席の上審理を遂げ次のとおり判決する。

主文

一、被告人を懲役一年及び罰金二三〇〇万円に処する。

二、被告人において右罰金を完納しえないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

三、被告人に対しこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は東京都新宿区歌舞伎町二丁目三一番七号に本店を置き、不動産の売買等を目的とする国栄地所株式会社(昭和五四年五月二五日設立、資本金一〇〇万円、本件当時代表取締役柳澤一彦)の業務に従事しその実質経営者として同会社の業務全般を統括していたものであるが、同会社の業務に関し法人税を免れようと企て、同会社の設立以来ことさら、所轄税務署長に対する法人設立の届出も、帳簿書類の備付・記帳をもせず、同会社の行う土地の仕入れ・分譲販売の収支明細を記入したメモは契約書、領収書等とともに分譲販売の一段落する都度これを破棄し、同会社の売上金等は被告人の家族名義等別名義の預金口座に預け入れる等の方法により同会社の所得を秘匿する工作をなした上、

第一  昭和五四年五月二五日から昭和五五年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二六一一万三〇八二円(別紙一の一修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が一四九二万八〇〇〇円(別紙二税額計算書参照)であったにかかわらず、同会社の法人税納期限である昭和五五年五月三一日までに東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄淀橋税務署長に対し法人税確定申告書を提出することなく右期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における法人税額一四九二万八〇〇〇円を免れ

第二  昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が九〇四七万〇五九八円(別紙一の二修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が五〇二二万四〇〇〇円(別紙二税額計算書参照)であったにかかわらず、同会社の右法人税の納期限である昭和五六年六月一日までに前記淀橋税務署長に対し法人税確定申告書を提出することなく右期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度の法人税額五〇二二万四〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示冒頭及び全般の事実につき

一、被告人の当公判廷における供述及び検察官(九通)に対する供述調書

一、森川信、佐竹収也、長谷川公一、早川一雄、安納勇、石川道雄、加藤光雄、佐野光治、岩上総一郎、野村陸三の検察官に対する各供述調書

一、大蔵事務官作成の調査書三二通

一、登記官作成の登記簿謄本二通

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項に、同第二の所為は右改正後の法人税法一五九条一項に、それぞれ該当するが判示第一の罪は犯罪後の法律により刑の変更があった場合であるから刑法六条、一〇条によい軽い行為時法によることとし後記の情状に鑑みいずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ罰金刑については判示第一の罪につき右改正前の法人税法一五九条二項、判示第二の罪につき右改正後の法人税法一五九条二項をそれぞれ適用していずれも免れた税額以下とし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、罰金刑については同法四八条二項により免れた税額の合算額の範囲内で、被告人を主文第一項の刑に処し、同法一八条により被告人において右罰金を支払えない場合に主文第二項のとおり被告人を労役場に留置し、後記の情状により同法二五条一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は被告人が市街化調整区域内の土地の分譲販売を行うため昭和五四年五月二五日国栄地所株式会社なる法人を資本金一〇〇万円で設立し自らは宅地建物取引業法違反の罰金前科があるところから知人柳澤一彦の了解をえて同人の代表取締役就任の登記を得て右会社を発足させたが、当初から法人税を申告納付する意思がなく、利益をあげた後は税務当局の追及をかわすべく右会社名義の営業はやめ、利益は次の事業資金にまわすべく、法人設立の届出もせず、会計に関する帳簿書類は一切作成せず(小口現金分のみ金銭出納帳に記入)、取引台帳等宅地建物取引業法上その備付が義務づけられている帳簿類も作成せず、単に各分譲地ごとに自ら収支明細メモを作成したり、店頭部長に売上一覧表を作成させるのみでこの収支明細メモも各分譲販売が一段落した都度、契約書、領収書等の他の証憑書類とともに破棄処分し、売上による利益は被告人や妻子の実名・仮名の預金に入金するなど、要するに同会社の所得一切についてこれを隠匿する工作をした上で法人税確定申告書を一切税務署長に提出することなく法定納期限を徒過し判示各事業年度の法人税を免れたという事案であり、更に被告人は税務当局の追及をかわすべく昭和五六年二月下旬ころには国栄地所株式会社名義での分譲販売を止め右会社は休眠状態にし、新たに昭和五六年三月ころ同じく市街化調整区域の分譲販売を目的とする日栄地所株式会社なる会社を設立し更に同年五月には資本金五〇〇万円で消費者金融業を営む株式会社マイルド同年一二月マイルド商事株式会社を設立し、国栄地所株式会社で得た利益の大部分を注ぎこんでその経営に当っているものである。このように本件はそのほ脱税額自体二事業年度で合計六五一五万円余と大きい上に、被告人が脱税するに至った動機にも特段斟酌すべきものはなく、本件脱税の犯行態様には極めて計画的なものが認められ、被告人の納税意識、遵法精神の欠如には著しいものがあるので、被告人の刑事責任は大きいといわなければならない。

そこで被告人が実質的には被告人即国栄地所株式会社ともいいうる一体の関係にあったことを前提に本件犯行の態様に即して被告人に対する量刑を考えてみるに、このような態様における無申告ほ脱犯の防止という一般予防の観点あるいは行為者責任を追及する個別予防ないし再犯防止の観点からしても、犯行による利得を保持させないとの趣旨においても、本件法人税ほ脱犯罪の犯行の行為者であり、かつ犯行による利得の最終的な帰属者である被告人に対して懲役刑と罰金刑とを併科するのが至当というべきであるから、被告人には前叙のとおり宅地建物取引業法違反の罰金前科があること、逋脱税額については期限後ではあるが申告をなし既にその一部を納付ずみで残額も分割して納付する予定であること、本件発覚後はその非を認めすすんで捜査に協力し当公判廷においても二度と脱税の犯行に及ばない旨誓約し反省していると認められること等、本件に顕れたその他の被告人に有利不利な一切の情状をも併せ総合勘案し、主文第一項のとおり被告人を懲役刑及び罰金刑に処することとし、情状に鑑み被告人の懲役刑についてはその執行を猶予することとし、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田眞一)

別紙一の一 修正損益計算書

(長谷川勝美)

国栄地所株式会社

自 昭和54年5月25日

至 昭和55年3月31日

<省略>

<省略>

別紙一の二 修正損益計算書

(長谷川勝美)

国栄地所株式会社

自 昭和55年4月1日

至 昭和56年3月31日

<省略>

<省略>

別紙二

税額計算書

国栄地所株式会社

<省略>

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